その2からのつづき
5.外胚葉社会に含まれるもの含まれないもの
外胚葉社会では感性や精神的充足が重要視される。前回述べたように、自動車や農産物もそのような欲求から購入される。外胚葉社会では、そのような人々の要求に応える製品やサービスが主流になるだろう(前回述べたようにコモディティ品は事業用製品・サービスはその限りではない)。新聞やラジオ・テレビ、出版、音楽、映画、演劇、娯楽産業、旅行業などが典型だろうし、博物館や生涯学習サービスなども含まれる。
また少し毛色が違うがNPO法人の活動も該当するだろう。さらに、自動車や農産物に見られるように、既存のビジネスにおいても人々の要求に応えるための価値が付加される。例えば鉄道も単なる物資や人の輸送手段ではなくなる。それは豪華な特別列車の運行だけではなく、我々が日常的に利用する通勤電車においても旧型式の車両の引退セレモニーが開催され、所謂撮り鉄が集う。これらは、外胚葉社会においては工業社会にあった従来の製品やサービスを再定義する必要があることを意味する。
ITの世界は、パソコンオタクの先行を経てWeb2.0を境に外胚葉社会に向けて大衆化した。ブログやFacebook、Twitterなどが典型である。人々は自ら表現者となってWebの世界に参画し出した。
一方、同じ高度なITを使っていても、ネットショップやB2Bの取引データの交換、SCMに見られる発注計画データの取引先間の共有などは従来の工業社会が効率性を追求した結果に他ならない。それは、前々回述べたように、手計算での集計作業の替わりにパンチカードシステムを導入したことと変わりはないのだ。
ただし、自動車や農産物、鉄道など外胚葉社会に向けた製品・サービスの再定義以外にも従来型の工業社会が外胚葉社会からの影響を受ける場合がある。例えば、ウィキペディアやLinuxに代表されるようなウィキノミクスの世界だ。ウィキペディアやLinuxはビジネスではなく純然とした外胚葉社会の産物だが、その発展型としてアマチュアやフリーランスの研究者を募って自社の研究開発に役立てるビジネスなどがある。「ウィキノミクス(ドン・タプスコット/アンソニー・D・ウィリアムズ (著))」には、大学で化学を専攻していたが、たまたま就職先が化学とは無縁の仕事で、尚且つ昔の夢を諦めきれずに趣味的に化学実験を自宅でおこなう主婦の例が載っている。そのようなアマチュア研究者を広く募り自社の製品開発に繋げようとする企てだ。また、ウィキノミクス以外の例としてFacebook、Twitterを行き交う膨大な情報を解析して自社のマーケティングに役立てることは、今日ビッグデータのひとつの例として注目されはじめている。これらは既存ビジネスに外胚葉社会の成果を取り込んだ姿だと考えることができる。
梅棹氏が外胚葉社会を情報社会と言ったように、外胚葉社会において情報が重要であることは間違いない。しかし、そこで意味する情報とは所謂無形の情報だけではない。自動車の例のようにハードな製品であっても、そこに受け手の感受性に訴求する情報が付加されている、という意味で情報が重要なのだ。極論を言えば、そのような情報は受け手の心の中を覗かなければわからない。したがって、外胚葉社会では工業社会のように合理的に演繹的に積み上げていけば良い製品やサービスが出来上がるというわけにはいかないのだ。しかし、まったくなすすべがないわけではない。そのひとつの対策は上で述べたようなFacebook、Twitterを行き交う情報や消費動向に関する情報を収集し解析して自社のマーケティングに役立てることだろう。ビッグデータやデータサイエンスが流行しているひとつの要因である。そしてもうひとつは、製品やサービスの開発者自らが受け手の立場になって感性を発揮することにあるのかも知れない。スティーブ・ジョブスの人並はずれた感性がアップル製品のブランドロイヤリティを築き上げたことが典型的な例である。
弊社では、情報系システムの改善・構築サービスをおこなっているが、次代の情報系システムでは、これらの視点を持っておくことが必要であると考えている。
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